T ボーン・バーネット/トゥース・オブ・クライム
T-Bone Burnett / Tooth of Crime
意識の浅瀬に不意に顔を出す無意識の深海生物たちの姿を
歌に置き換えたかの如きダークなシンフォニー。
クリーチャーたちの氏素性がまたおもしろく
例えば三曲目の快/不快の境界線上をふらついているようなメロディは
サイケデリック期のジョン・レノンみたいだし
七曲目の壊れたファンク・チューンは
ロクシー・ミュージック、セカンドの”ザ・ボーガス・マン”そっくり。
八曲目に至ってはまさにジャック・ブレルの”行かないで”そのもの。
ELP似のシンセ、ウォズ(ノット・ウォズ)似のブラスなども散見され
意識の浜辺でビーチ・コーミングするような愉しさも味わえる。
どれをとってもたまらない素材なのだけれど
素材選びの趣味の良さというレベルを遥かに超えて
無意識の波が意識の岸辺を浸食する見事なサイコ・ドラマに仕立て上げる手腕には舌を巻く他無い。
ストリングスをサンプルしたメロトロン(のふりをしたストリングス?)の不安定な音色と
糸を引く粘ついた歌唱が不穏さを煽る
ロイ・オービソンとの共作の五曲目はあっけにとられるリンチ・ワールド。
イザベラ・ロッセリーニを相手に「マミー...」と甘え身悶えする
”ブルー・ヴェルヴェット”でのデニス・ホッパーの姿が甦る。
本当にちょっと怖く、美しい。
収録曲ではありませんがその片鱗は
こちらで。