鏡にのぞく素顔

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スコット・ウォーカー / スコット4
Scott Walker / Scott 4

これは途方もなく美しい。
日に三度はかけているからこの4ヶ月の間に360回は聴いた計算になる。
実際にそうなのだから気持ちの上ではもうとうに千回を超えているのだが
いくら聴いても飽きるどころか一層深くその世界に身を沈めたくなる。
沈めたいのにこちらの力不足でなかなか深いところまで辿り着けず
今日もまたスコット・ウォーカーという巨大な謎のとば口でうろうろしているのだ。

スコット・ウォーカーと聞いて誰もが思い浮かべるのは
まず強靭で透明な神々しいばかりのあのバリトンだろう。
あの豊穣でクールな歌声を
僕たちはごく普通に彼の声として受け止めているけれど
果たしてあれは彼にとって自然なものなのだろうか。
考えてみれば当たり前の話だがあれは地声ではない。
数あるバリエイションの中から選びとって磨き上げビルドアップして来た声だ。
この作品に親しむに従って
自分にはあの声が彼の素顔を隠す仮面のように
体を覆う脱げない鎧のように思えてきた。。
そう云えばジョン(レノン)もエフェクターをかけていつも自分の素の声を隠していた。
素顔のままではいられないどんな事態が彼を捉えたのか。
スコット・ウォーカーの歌の世界では自分の心情は直接吐露されることはなく
物語やシークエンスを通して婉曲に語られるものだから
シンガーソングライターのような地声よりは
ビルドアップされた声の方が効果的という計算があるにせよ
そこにその思惑を超えた何かを嗅ぎ取らずにいるのは難しい。
たとえば8曲目の"Duchess"。
伯爵夫人という浮世離れしたタイトルのこの曲で聴かれるヴォーカルははっとするほど無防備で
裏ジャケットのプロフィールそのままにイノセントな少年の面影が濃い。
フォーク・カントリー調の演奏に典雅なストリングスを配した小さな曲なのだが
そんな小品の鏡にうっかり素顔を映してしまったというふうで
仮面の奥の素顔を垣間見たような
開いてははいけない扉を開けてしまったような気がして
何度聴いても脈の早まる思いがする。

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青年スコット・ウォーカーの世界には中間領域が見当たらない。
はにかみを隠せない未熟さと
鉄面皮な老成が直接繋がっている。
よく聴けば彼の歌にはどれもこの両端が埋め込まれていて
その両端が瞬時に入れ替わる彼の世界で翻弄されることほど
スリリングで悦ばしい音楽体験は今他に身当たらない。
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by miracle-mule | 2010-04-23 23:51 | 新着CD
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