男子の絵本 その6

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老夫婦 / ガブリエル・バンサン

高校三年の頃だった。今野雄二が教えてくれたジャック・ブレル。
その今野雄二の死、ヒロシマ・ナガサキ、終戦記念日そしてお盆。
光が乱舞して躍動するする八月は同時に死に思いをいたす季節。

原作はシャンソン作家・歌手ジャック・ブレルの"Les Vieux "。
心うたれたバンサンが繰り返し繰り返しレコードをかけつつ描き絵本化した。

”年老いたふたりには、いまはもう話すこともなく、ときおり、おたがいにそっと目をやるばかり。
お金があろうとなかろうと、もうゆめもなく、思いやりがあるばかり。”

ブレルの歌においてはメリーゴーランドではしゃぐ我が子の姿を思い浮かべる追憶の如き甘みが
老いた夫婦の心持ちを救いとして縁取っているのだが
バンサンはその甘みをバッサリと削り落とし老いることの過酷さを暴いて
老夫婦に残されたものが思い出の他には何もないことをむごいくらいに浮き彫りにしてみせる。

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”年老いたふたりは、死ぬのではなく、ある日、眠りにつくばかり。永い永い永遠(とわ)の眠りに……。
ふたりはおたがい手をとりあい、あいてに死なれるのがこわいのだが――
けれどやっぱり、どちらかが死んで、どちらかがのこる。
善いほうか悪いほうか、優しいほうかきびしいほうか、それはもうどうでもよいこと。
のこった者もまた、この世の地獄におちるのだから。雨のような哀しみの中、
もう長くはないのと、もうしひらきながら、生きのこり、生きのびていく……。”

思い出が増えて行くということはひっくり返せば残り時間が減って行くということで
思い出の量と人生の手持ちの時間は反比例の関係にあるわけだけれど
時間が減れば自動的に思い出が増えるかと言えばそうともいえず
そこには思い遣る相手の存在が不可欠でそれなしには
白紙の頁が重ねられていくばかりだ。
であれば老いたふたりの今がどのように過酷であっても
それはやはり幸せな人生でもあったのだ。
ここでは人の一生の豊かさとやり切れなさが合わせ鏡のように反復する。
バンサンの眼差しの厳しさと優しさに二度三度と頷かされる一冊。
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by miracle-mule | 2010-08-11 23:52 | 本の棚♦♦棚の本
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