<   2008年 11月 ( 8 )   > この月の画像一覧

新着案内/ディランの種

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エリオット・マーフィー/ナイト・ライツ
Elliott Murphy / Night Lights

こーんなに良いのに何であの時手放しちゃったのかな
バカだな、短慮だったなと反省してみてももう手遅れ。
80年代の初め、手持ちのアナログ盤の多くをを処分したことについては
ことあるごとにその愚行蛮行を悔やんでいるのだけれども
エリオット・マーフィーはその際皆といっしょ処分してしまったうちのひとりで
そのうちの一枚をCDというかたちでいま一度入手し聴き直しつつ
その良さに身悶えしたりしていると
おのれの過去の過ちと再び手にした幸せとの間で
なんだか心引き裂かれた感じ。

ギターを抱えた文学崩れでもいいし
ハーモニカを銜えた街頭詩人でも
ビート書生でもいいけれど
帯や解説にある「ストリート・ロッカー」っていうの
なんだかノリが違う気がする。
だからジャケットには街角に仁王立ちのロッカーな表の写真ではなく
ブラッサイだかブレッソンだかみたいな
ナイト・ホークな物語を想像させる裏側のそれがふさわしい。
リッキー・リーの”パイレーツ”みたいにね。
代表曲”ユー・ネヴァー・ノウ..."の
ニール・ヤングそっくりのギターとハーモニカのイントロには
30年経っても胸が高鳴り
続く”ルッキング・フォー・ア・ヒーロー”では
これは以前はまったく気がつかなかったことなのだけれども
そのスティーヴ・ハーリーそっくりな歌いぶりに30年遅れで仰天。
不自然に喉を絞ったいやらしい歌声、いいなあ、好きだなあ。
そういえば”スペイス・オディティ”のフォーキーなボウイに似たところもそこここに。
ディランの蒔いた種はあの頃あちこちで実に多様な花を咲かせていたのだな。
他にもジャズ・エイジな”デコーダンス”などどれをとって好きな曲。
ただすき間を埋めるシンせやコーラスはちょっと厚化粧かな。
ボーナス・トラックのシンプルな弾き語りデモの魅力を
損なわないプロダクションであれば大の付く傑作になったかも
というのは凡夫の強欲。
万人向けではないけどその手の癖が好きな人にはたまらない一枚。

これはちょっと老けたエリオットが歌うストーンズのバラッド”ワイルド・ホーシズ”

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by miracle-mule | 2008-11-27 01:28 | 新着CD

街道のUFO

あなたはタンクローリーの後ろについて走るのがちょっと好きで
見つけるとついぶらさがってしまう。
まずぴかぴかのステンレスのタンクが昔の未来のようで
246を疾走するUFOみたいだとあなたは思う。
UFOがステン製かどうかなどと細かいことにこだわってはいけない。
何よりも特筆すべきは後部の凸面鏡の部分で
見ていると目の前に大穴が開いて
その穴からここではない何処か別の空間が飛び出して来るみたいに
バイパス沿いのありふれた景色が片端から塗り替えられていく様に
あなたはワクワクしてくる。
接近すると自分の車が大写しになり
ちょっと離れるとあっという間に消失するのも楽しくてたのしくて
近づき過ぎるとワクワクどころかバラバラになってしまうので
いけないと思いつつも
わたし、ではなくあなたはつい繰り返し遊んでしまうのでしょう?
いい歳をして。

岸本佐知子ごっこ、まことにもってむつかしい。

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by miracle-mule | 2008-11-24 01:09 | 街のバロック

哀しみの泉

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ジャクソン・ブラウン/レイト・フォー・ザ・スカイ
Jackson Browne / Late for the Sky

瑞々しいメロディと憂いに満ちた自身の歌声
名手D.リンドレーのスライドとフィドル
さらにイーグルスの面々によるコーラスといった極上の絵の具で
青春期の甘やかな痛みを見事に描き出した
74年のJB畢生の名作。

JTのクリスマス・アルバムにはぐっと来たというつれあいに
「JTは良くてもJBはあまり好みじゃないでしょう」と水を向けると
「嫌いじゃないけど...」と正直なお答え。
いかにも「....じゃないけど友達のままでいたいな」てな台詞を吐きなれた風情である。
ふっ、わかってないな。
この抒情。
抒情に流れ過ぎ、なのではなく抒情そのもののこの良さが。
センチメメンタルに過ぎる?
はっ、わからぬのだな、女には。
男未満の男の子を引きずった甘ったれた感じのこの良さが。
特別に一人前の男である自分の場合はちょっと違うのだけれども
一般に男というものは時おりそんな”レイト・フォー・ザ・スカイ”的な状態に
首までどっぷり浸かって「頭のひとつも撫でてもらいたいものだなあ」
などという欲望に屈してみたい生き物なのであり
夢ゆめそれを頭ごなしに叱ったりしてはいけないのであって
わかってあげてほしいな、そこいらあたり。
ま、あくまで一般論なんだけれどもね。

ちょっと音が悪いけどこれが名曲哀しみの泉
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by miracle-mule | 2008-11-20 02:40 | アーカイヴス

新着案内/かそけき光の差すところ2

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スフィアン・スティーヴンス/セブン・スワンズ
Sufjan Stevens / Seven Swans

ミニマルに反復するバンジョーや女性コーラスの催眠効果もあってか
この作品の世界は静かな教会の音楽を思わせる。
そびえ立つ大聖堂ではなく
熱気ほとばしるハーレムや南部の教会でもなく
北国の見捨てられた寒村の忘れられた人々のための小さな教会の
ただ密やかに祈るために用意された音楽。

これからの季節、起きぬけの寝床ほど
恋しく愛しく未練断ち難いものはないというような
温帯的、微温的人間にとって
想像される北国の厳寒の暮らしは
手の届かぬ夢のまた夢の世界ではあるけれど
届かぬ故になおさら掻き立てられる夢想というものもまたこれあるのであって
雪に埋もれた半ば朽ちた教会でひたすら祈る自分の姿を
ロマンティックにうっとり想像しはしたものの
現世の御利益以外に何ら祈ることがないという
寒々しくもリアルな現実に行き当たって絶句。
ロマンティックたちまち寝床まで後退し
亀の如く首をすくめてブルータートルの夢。
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by miracle-mule | 2008-11-17 01:30 | 新着CD

夜空の雫

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プリファブ・スプラウト/アンドロメダ・ハイツ
Prefab Sprout / Andromeda Heights

80年代以降最高のソングライター、パディ・マカルーンの
最も美しいメロディーが詰まったこの作品集は
星が濡れたように瞬きはじめるこれからの季節、さらにその輝きを増す。
あまりの美しさに言葉もなく
ただただきれいだな、きれいだなと馬鹿者のように繰り返すばかり。
音楽でも絵画でも女性でもとことん美しいものを前にしたら
惚けてみせるよりこちらとしては他に手はないのだけれど。
楓の樹液を溜めて楓砂糖をつくるように
降る星の雫を集めて
マカルーンがこしらえた沈黙の博物館。

プリファブ流シックス・センスはこちら
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by miracle-mule | 2008-11-13 00:05 | アーカイヴス

新着案内/フーテンのジョナさん

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ジョナサン・リッチマン/ビコーズ・ハー・ビューティ・イズ
Jonathan Richman /Because Her Beauty Is Raw and Wild"

寅さんというひとは恋しいマドンナたちに対してはもちろんのこと
暗闇の中でスクリーンの光の明滅を見つめる観客にも
惜しみなく愛を注ぎ続けた天使的存在だったのだなあと気づいたのは
ジョナサン・リッチマンのこの新譜を聴きながら
こんなひとをもうひとり知っている気がするが
と思ってはたと膝を打った先日のこと。
ドラムのトミー・ラーキンスを引き連れた旅から旅の浮き草稼業で
行く先々の観客にステージから無償の愛を振り撒いてはロビーでCDを叩き売る
というのはいささか誇張が過ぎるけれど
このひとのファンの多くは善良な者への素朴な共感とか慈しみとかいったものを
彼の歌から受け取っていて
機会があればそれを誰かに手渡したいと思っている。
寅さん観て映画館を出る時みたいに。

前半はいつも通りのジョナサン節。
自作のリメイクかと思わせるようなおなじみのフレーズが次々繰り出されるのは
快調、ノリノリのしるし。
が、10曲目の”オールド・ワールド”は
久々にルー・リードの亡霊(まだまだ生きてる)が
乗り移ったみたいなヴェルヴェッツ調。
続いて螺旋を描いて下降していくヴォーカルと
スパニッシュな血気さえ感じさせるギターと
漂って消えては現れるアウト・オブ・キーなピアノと
それぞれまったく噛み合わないエレメントを
その気性気立てのオーラでなんとなく調和させた様が気持ち悪良い
”アワ・パーティ...”と意外な方向へ展開して行き
最後には死の床にある母を見つめる”アズ・マイ・マザー・レイ・ライイング”が
ひっそり置かれていてしみじみ。
ジョナサンの芸人根性と芸術的野心が解け合ったもやもやと心にしみる一枚。
今よりちょっと若いジョナサンはここで。

下は昨日上野で見て来たデンマークの画家ヴィルヘルム・ハンマースホイ。
上のジャケットとちょっと似た世界。

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by miracle-mule | 2008-11-09 01:28 | 新着CD

男子の絵本 その4

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和田誠 村上春樹/ポートレイト・イン・ジャズ

お気づきのように当館にはジャズのコーナーがない。
聴かない訳ではないけれどめったに聴かないしCDの数も少ないので
たいていの作品はあらかたソウルと一緒に
ブラックミュージックのコーナーにつっこんである。
その程度の付き合いなのでジャズを語る資格はまあないわけなのだけれど
春樹さんの書くジャズに関するエッセイ(翻訳ものも含めて)は大好きで
正直最近の彼の小説よりずっと面白く読んでいる。
これは和田誠さんの作品に文章を付けるという形でできあがった本なので
あくまで和田誠主演なのだが
やはり春樹さんの文章がサクサクと美味しい、おいしい。
お茶も欲しいな。

(スコット・フィッツジェラルドとスタン・ゲッツ)「二人の作り出した芸術に、
いくつかの欠点を見いだすことはもちろん可能である。僕はその事実を進んで
認める。しかしそのような瑕疵の代償を払わずして、彼らの美しさの永遠の
刻印が得られることは、おそらくなかっただろう。だからこそ僕は、彼らの
美しさと同時に、彼らの瑕疵をも留保なく深く愛するのだ。」(ここは本文からの引用です)

気持ちに表現がぴったりと寄り添っていて惚れ惚れする。
こういう文章を書くひと、留保なく深く愛してしまう。
思わず連れあいを正座させ読み聞かせを行うなどつい軽挙盲動に及び
恥ずることしきり。

他にもチェット・ベイカー、ジェリー・マリガン、ビリー・ホリデー、
セロニアス・モンクを語ったものなど読んで聞かせたいもの多数。
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by miracle-mule | 2008-11-05 02:22 | 本の棚♦♦棚の本

新着案内/かそけき光の差すところ

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スフィアン・スティーブンス/ミシガン
Sufjan Stevens / Greetings from Michigan

故郷ミシガンの名を冠した
合衆国全州踏破シリーズ中の2003年リリース作品です。
北国の心細いほど静かな晩秋の日差しそのもののような
あるいは日を追って弱っていく太陽をそっと励ますような歌声やホーンの響きを
ピアノやバンジョーが作り出す
やわらかに岸辺を洗うさざ波のリズムに乗せて描かれた世界は
森や湖畔の光景の一瞬を封じ込めた透明な小瓶を覗き込む思いがする。
瓶の中の小さな世界は永遠のようでもあるし
弱った光に緩慢な速度で分解されていくようにも思える不思議。

ヴァージョン違いの弾き語りもあります。

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ジャケットを拡げて裏返すとミシガンのかわいい地図に。
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by miracle-mule | 2008-11-02 01:41 | 新着CD