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本に呑まれて その9/スグカエレ

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久世光彦/ニホンゴキトク

向田邦子の文章を読んでいると
おおこれは趣があるなあとかああなんて粋なとため息の出るような
古い言葉や言い回しによくぶつかる。
そうした言葉に出会ったら書き留めておかなくちゃと思いつつ
先を急ぐ読書の悪い癖が出て想いを果たせずにいたのだけれど
向田さんのことを好きでたまらない久世さんが
きちんとまとめて本にしてくれてありました。

世間から用無しの烙印を押されて退場しかかった、
あるいはしてしまった言葉は
ホントに不要なのだろうかという疑問がありましょう?
消えてしまったらホントに住みにくい世の中になるのだろうなという例をこの本から
例えば「気」の付く言葉で拾ってみる。
気落ち、気兼ね、気苦労、気働き、気後れ、気忙しい、気重、気散じ、
気に病む、気がかり、気くたびれ、気がとがめる、気を回す..。
こういう言葉を無くした世の中は野暮なばかりか本音むき出しで世知辛くてもういけない。
他にも杉村春子や沢村貞子が襟元つまんで「おまえさん」に向かって言いそうな
堪え性だの邪見だの昵懇(じっこん)だのといった粋な言葉がぎっしり。
こういう宝物を手前どもの代で無くしたらそれこそ寝覚めが悪い。
伝え聞くところ近頃では想いは告げるものでなく告る(コクる)ものだとか。
その善し悪しを言うつもりはないけど告る想いっていかにも軽そうだ。
個人的にはあられもないおねえちゃんに「告られる」よりは
版画家の山本容子さんなんかに
「じれったいねえ」
なんて科白を背中に投げつけてもらえたらとてもうれしい。
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by miracle-mule | 2009-06-27 01:40 | 本の棚♦♦棚の本

ハリー・細野氏の無口な太鼓

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久保田麻琴と夕焼け楽団/ハワイ・チャンプルー

ニュー・ウェイヴ風味のサンセッツもかっこよいけれど
今の時代によりフィットするのはサンセッツのもうひとつ前の夕焼け楽団。
ハワイ、メキシコ、ニュー・オーリンズ、沖縄が絶妙にブレンドされて
湿った空気の中を乾いた風が通り抜ける細野晴臣プロデュースのチャンキー(チャンコ、ファンキー)ミュージックは
蒸し暑い夏に向かうこの時期ことのほか心地良い。
よく転がるピアノ、ドリーミーなペダル・スティール、
音楽が調子の良い割に寡黙で穏やかでまろやかなヴォーカル、
でもってとどめは細野さんの無口なドラム。
波の音を聴きながら椰子の木陰で居眠りする(気分に浸る)には最適な75年の快作。
今はプロデューサーとして名高いけれど久保田麻琴は歌い手としてもホント素晴らしい。
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by miracle-mule | 2009-06-24 02:02 | アーカイヴス

古雑誌、70年代のローリング・ストーン

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70年代は今に比べると洋楽に活気があって雑誌もたくさん出ていた。
グラビアの素晴らしい日本版ローリング・ストーンは
発売日が待ち遠しかった雑誌のひとつ。
これは74年の1月号と75年の12月号。
ページをめくると1月号には日本でも見られるはずだったストーンズのツアー・レポートの他

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こんな広告や

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このひとのこんな新譜の広告も。
古い雑誌の広告は時代の空気が真空パックされていて
へたな記事よりずっと面白い。
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by miracle-mule | 2009-06-21 00:08 | 俺様くんの宝石さ

真夜中のカウボーイ、その後

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クリス・アイザック/バハ・セッションズ
Chris Isaak / Baja Sessions

Tボーン・バーネットがロバート・プラントと作った
”レイジング・サンド”を聴いていたら
無性にクリス・アイザックが恋しくなってしまった。
クリス・アイザックという人は
Tボーンと同様の闇の世界の住人といった佇まいを色濃くたたえながら
ロイ・オービスンの暗いぬめりばかりでなく
初期エルヴィスのイノセントな眼差しを思い起こさせる歌声が清純無垢でもあって
さながら世界一心美しい男娼といった風情。
そんなクリスが南カリフォルニアに無邪気に遊び
すっかりくつろいでいる様子が窺える本作は
彼が演じてみせる映画”真夜中のカウボーイ”の後日譚の趣きがある。
男娼ジョン・ボイトが末期に見る夢、
ボイトがかつての相棒ダスティン・ホフマンとともに目指し
辿り着くことのなかった楽園に遊ぶ夢のようだ。

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ロイ・オービスンの”オンリー・ザ・ロンリー”、
スタンダード”国境の南”のリメイクと
自身の代表曲”ダンシン”をはじめとする三曲のリモデルに
新作を加えたできあがった本作は
生楽器主体の音作りとこれまでになく無造作な手触りが
いつにも増して彼の歌声の物憂さを浮かび上がらせて
「南方的な」気だるい心地良さに溢れていてたまらない。
聴き手を亜熱帯の涼やかな木陰の午后へと誘う96年リリースの愛聴盤。

少し老けたかな。でも歌声は変わらず
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by miracle-mule | 2009-06-17 01:45 | アーカイヴス

老いさらばえても

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ボブ・ディラン/トゥゲザー・スルー・ライフ
Bob Dylan / Together Through Life

売れているのだそうだ。
アメリカでは前作に続いて発売と同時に一位になったとかで
また新たなピークを迎えているという評判もある。
だからと言って今回飛び抜けた楽曲が並んでいるわけでもない。
かつての切ってから血が噴き出すまで一瞬の間ができるような切れ味鋭い曲は見当たらない。
が、刃のこぼれたメスでなければ手当てできない痛みもあるということが近頃は解る。
ゴム長でかき回したしたばかりの水たまりを思わせる歌声は
前作に比べてもさらに濁ってきたけれど
歌の世界は水の中の土煙みたいに大胆でドラマティックだ。    
テックスメックスの意匠を凝らしたブルースは既視感があって馴染み易いばかりでなく
砂漠の生き物の上に降りる朝露のように優しく
裏ジャケ写真のロマのバンド連中の視線に負けず力強く逞しい。
映画”ボブ・ディランの頭の中”で久しぶりに見た動くディランは
痩せて小さかった。
昔、武道館で見た彼はオーラたっぷりでとても大物に見えたけれども
覚えているのはそればかりで肝心の演奏の中味の方は
印象が薄くもうすっかり忘れてしまった。
大物のオーラで覆い尽くされていたあの頃よりも
周囲のおもちゃにされることを楽しんで引き受けているしょぼくれた近年の方が
よほど大きく近しく感じられる。
この人はこれまでずいぶん沢山のものを手放してきた。
フォークのプリンスの称号を手放し
奥さんを手放し
投資と映画の失敗で館を手放し
終わらないツアーで時間を手放し
若さを手放した。
代わりに何を得たのだろう。
転がり続ける石には苔もむさず
表面からだんだんに欠け落ちて小さくなって行くばかり。
厚い殻や鎧を脱ぎ捨てて小さく小さくなってやっと解放(リリース)されたということか。

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どんな気がする
老いさらばえて身ひとつでいることは
どんな気がする
ひとつ処に留まれず
石のように転がり続けていることは
  ”ライク・ア・ローリング・ストーンのひと捻り”
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by miracle-mule | 2009-06-14 00:17 | 新着CD

ストーンズのシングル盤”ジャンピン・ジャック・フラッシュ”

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快調新シリーズ、ひとりよがりのお宝自慢第三弾は
1968年、沼津市立第一小学校六年生の時分に初めて買ったストーンズの17センチ・シングル。
B面は”チャイルド・オブ・ザ・ムーン”
もちろん当時バリバリのニュー・シングル。
男心にこどもが惚れてこれで人生誤ったという噂もなくはないのだった。
こういう笑顔で不幸の種を飲み込んだこども達がいっぱいいたんだろうね、あの頃は。
情報不足で写真の誰が誰だかもわからなかったのだけれども。
今見るとキース、ブラック魔王みたいで可笑しい。
価格は400円とある。
けっこうなお値段です。

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72年には武道館公演のチケットも帝都まで出向いて手に入れました。
実現していればまさしく絶頂期のストーンズを体験できたはずで
これは今もって口惜しく時の外相(大平正芳!)をまだ恨めしく思ったりしております。
貧乏に負けてチケットを払い戻した己の浅はかさもまた哀しい。
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by miracle-mule | 2009-06-10 01:44 | 俺様くんの宝石さ

様子のいい男の歌というものは

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ボビー・ヴァレンティノ/ユー・アー・イン・ザ・グルーヴ、ジャクスン
Bobby Valentino / you're in the Groove, jackson

ツエッペリンでのぼせ上がった頭を冷そうと
久々に取り出したボビー・ヴァレンティノおそらく唯一のソロアルバム。
足掛け二十年、付かず離れず聴いてきたけれどここまで良いとは正直思っていなかった。
最近では同名の黒人歌手に追いやられて検索をかけてもこちらのボビーまで辿り着けない現実が寂しいけれど
そんな逆境がこの作品に対するの愛おしさをさらに後押しする。
このスタイルはレオン・レッドボーンやダン・ヒックスの系譜に連なる今様アコースティク・スイングということになるのだろうか。
クルーナー・ヴォイスのヴォーカルはおそろしく達者でビング・クロスビーみたいだし自慢のヴァイオリンも実に気持ち良さげにスイングしている。
バックのギターもベースもドラムスも歌心があって
ジャマイカ風でもハワイ風でもメキシコ風でもテキサス風でもどんと来なさい。
あからさまにそれ風と思わせず歌声の背後に控えめに織り込んでみせるあたり
どうして粋なもの。
どれをとってもスタンダードかミュージカル映画の主題歌に聴こえるのだけれど
これがほとんどオリジナルだったのには驚かされる。
書き割り的な美しさに安心して身を任せている聴き手を
ふいに行き先の知れない向こう岸へと連れ去るラビリンスな03、05、10などは
まさしくヴァレンティノ版”アイ・スケア・マイセルフ”(ダン・ヒックス)!
そしてとどめは最後に置かれた”ファンシー・ミーティング・ユー・ヒア”。
これまで語られて来た悲喜こもごもがが
酒場から連れ出す者とてない酒に溺れた孤独な女の
アルコールの霧にまかれた幻か回想だったことを暗示して幕を下ろす。
前の記事で採り上げたファビュラス・プードルズの
岡田真澄似のフィドラー(写真右下)畢生の90年の名作。
耳に直接語りかけられるイヤホンでどうぞ。
貴女のため息をしぼること請け合いだから。
男子は乙女になったつもりで..どうぞ。
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by miracle-mule | 2009-06-06 22:58 | アーカイヴス

ファビュラス・プードルズのイギリス盤LP

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学生時分とてもお世話になった輸入レコード&喫茶の店
阿佐ヶ谷メロディ・ハウスで初めて買った思い出深いLPです。

ジャイアント・プードルを可愛く仕立てたアルバム・カヴァーが
最近のトイ・プードルを見慣れた目には可愛いを通り越してる気もする
パンキーでキッチュでいなせなF.プードルズ、77年のデビュー・アルバム。
アグレッシヴな曲もドリーミーなのもどこか皮肉でノスタルジック。
スパークスやセイラーあたりの遺伝子が感ぜられそこがまた良いのだけれど
パンクの嵐まっただ中のイギリスではまさにそこいら辺が
マーケッティングの妨げになったのか売れ行きはいまひとつふたつ。
だからかCD化もろくにされておらず
探してみるとアメリカ盤の編集モノに馬鹿げた値がつけられていて
驚愕して憤慨して。
それならこれだってお宝?
当時のイギリス盤は表面がしっとりしていて色合いにも深みがあって良かった。
紙質が柔らかでぎっしり詰まったレコード棚に戻す時は
背がつぶれないように気を遣う。
そんなイギリス盤だからビニールの袋も二枚掛け。
こわれものみたいに、イザベル・アジャーニみたいに
扱ったものでした。はは..

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プロデゥースはザ・フーのベーシスト、故ジョン・エントウィッスル。
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by miracle-mule | 2009-06-03 13:27 | 俺様くんの宝石さ