老いさらばえても

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ボブ・ディラン/トゥゲザー・スルー・ライフ
Bob Dylan / Together Through Life

売れているのだそうだ。
アメリカでは前作に続いて発売と同時に一位になったとかで
また新たなピークを迎えているという評判もある。
だからと言って今回飛び抜けた楽曲が並んでいるわけでもない。
かつての切ってから血が噴き出すまで一瞬の間ができるような切れ味鋭い曲は見当たらない。
が、刃のこぼれたメスでなければ手当てできない痛みもあるということが近頃は解る。
ゴム長でかき回したしたばかりの水たまりを思わせる歌声は
前作に比べてもさらに濁ってきたけれど
歌の世界は水の中の土煙みたいに大胆でドラマティックだ。    
テックスメックスの意匠を凝らしたブルースは既視感があって馴染み易いばかりでなく
砂漠の生き物の上に降りる朝露のように優しく
裏ジャケ写真のロマのバンド連中の視線に負けず力強く逞しい。
映画”ボブ・ディランの頭の中”で久しぶりに見た動くディランは
痩せて小さかった。
昔、武道館で見た彼はオーラたっぷりでとても大物に見えたけれども
覚えているのはそればかりで肝心の演奏の中味の方は
印象が薄くもうすっかり忘れてしまった。
大物のオーラで覆い尽くされていたあの頃よりも
周囲のおもちゃにされることを楽しんで引き受けているしょぼくれた近年の方が
よほど大きく近しく感じられる。
この人はこれまでずいぶん沢山のものを手放してきた。
フォークのプリンスの称号を手放し
奥さんを手放し
投資と映画の失敗で館を手放し
終わらないツアーで時間を手放し
若さを手放した。
代わりに何を得たのだろう。
転がり続ける石には苔もむさず
表面からだんだんに欠け落ちて小さくなって行くばかり。
厚い殻や鎧を脱ぎ捨てて小さく小さくなってやっと解放(リリース)されたということか。

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どんな気がする
老いさらばえて身ひとつでいることは
どんな気がする
ひとつ処に留まれず
石のように転がり続けていることは
  ”ライク・ア・ローリング・ストーンのひと捻り”
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by miracle-mule | 2009-06-14 00:17 | 新着CD
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