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ロング・ブラック・ヴェイル

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ザ・チーフテンズ/ロング・ブラック・ヴェイル
The Chieftains /Long Black Veil

アイルランドから移民とともにイングランドや合衆国に渡った伝統音楽が
土地の音楽と交雑を繰り返した末に実った
たわわな果実ともいうべき音楽家たちを迎えて
アイルランド伝統音楽のイノヴェイターが制作した95年の作品です。
鮭の如く母川を遡りあらためてアイルランドと向き合おうとする
歌い手たちを受け止めてチーフテンズが伝統音楽の新たな領域を拓いて見せます。
ゲール語で歌うスティングは生真面目な将校か聖職者のよう。
マーダー・ソングのタイトル・トラックではミック・ジャガーが無垢と狡猾をひと掴みにしてみせ
シンニード・オコナーはすり傷を寒風にさらすように痛々しく
黒々とした大河のような歌声で深く強く郷愁を呼び起こすのは
自身の絶頂期の名作をセルフ・カヴァーしたヴァン・モリソン。
マーク・ノップラーがつぶやく恋物語は村の古老の昔語りの如くひび割れて
ライ・クーダーの鄙びた歌とギターはゆるやかに南方の大洋へと誘います。
素晴らしく弾む歌声でアメリカ生まれのスタンダードからソウルな魅力を掘り起こして
アイルランドに里帰りさせたのはあのトム・ジョーンズ。
チーフテンズの演奏はフィドルやアコーディオン、ホイッスル、イーリアン・パイプなどが
つるんでは離れ、絡んでは離れして
一見好き勝手、自由気ままに戯れているようでいながら
あくの強いゲストたちの歌声を花にたとえ
バンドの演奏を葉や茎に見立てて
ウイリアム・モリスの植物画のような
繊細で静的でかつ生命力に富んだ世界を作り出しています。
霧に映写した名画のような一枚。

ヨーロッパのコーナー、アイルランドの項にあります。
by miracle-mule | 2008-07-05 02:35 | アーカイヴス
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